ひたすらの放浪旅 鉄道紀行上信電鉄の旅なのだよ。
時期は年が明けてまだまもない頃。
あんなに待ちわびていた筈の正月休みもいよいよカウントダウンが始まり、新年というのに少し憂鬱な気持ちであった。
冷たい風邪が吹きあられ身震いしながらも気持ちを紛らわせようと足を向かわせたのは、群馬県にある上信電鉄。
路線図でも高崎から伸びており、新潟に行く上越線。また埼玉のローカル線代表である秩父鉄道を横目にしれっと伸びている。言わば地味な路線である。
元々は上州と信州を結ぶ目的で作られたことからその名前が付けられているが、途中広大な山々を前にあえなく下仁田までに工事を打ち切られ現在に至る。
三ヶ日というのに人混みで慌ただしいJR高崎改札をクラクラしながらやっとの思いで潜り抜け、一旦駅舎を出たところにそのホームは設立されていた。
静けさが漂い少し都会の雰囲気から忘れ去られたような上信電鉄の改札。
まるでスナックを思わせるような電子文字盤が異様な何ともシュールな雰囲気を醸し出している。
窓口で1日乗車券を購入し、さっそくホームへ入ろうとすると
懐かしのハサミでその乗車券に印を入れ、心地よいパチンという音と共に私の旅が開始された。
昭和時代に主に普及されてきた木製のロングシートが哀愁帯びていて、たまらなく腰を掛けて電車を待つ。
乗車客は地元の人の他に、途中駅にある世界遺産にも登録された富岡製糸場へ向かう観光客もいるようで時間と共にそこそこ人が集まってきた。
乗客たちを運ぶのは、2両で編成されたデハ251。
一応電化されているものの昭和56年に製造された古い車両である。
当時はタブレットを通過手形とした事から今もその名残として右側に運転席が設置されている。
昭和生まれの古い車両は、下仁田のネギの広告をちぐはぐに着飾りホームへ入車した。
車内には子どもから大人まで地元で募集した絵画が一面に張り付けてあり非常に賑やかである。
豊富な絵画に辺りをキョロキョロと見渡しながら席に着くと、いきなり視界がすとーん!と落ちて一瞬体が硬直する。
はて、椅子を外す程そんなによそ見をしたかな?ともう一度立ってシートを見ると すこぶる椅子が低いのである。
おまけに体がよく沈むこと。勿論私の体重が重いだけが理由ではない。。。
電化されているとは言え、通常の鉄道と比べ遥かに遅いスピードで走り出し市街地から後半にかけては山沿いをノロノロと走り抜ける。
終点の下仁田駅までは約33.7km。
有人だった駅舎もそのうちプレボブ小屋と化し、半分席が埋まっていた車内は路線を真ん中まで通過した頃にはわずか10人足らずとなっていた。
タイムスリップをしたかの様に懐かしの木造駅舎の下仁田駅は関東の駅舎100選にも選ばれ設立100年の歴史を誇る。
周辺には地域の小さなコンビニがポツンとあるだけで先程下車した客は跡形もなく姿を消していた。木枯しの様に吹き抜ける風が余計に街の寂しさを掻き立てる。
さて、何処へ行こうか。
取り急ぎ駅前にあった周辺の地図だけを頼りに方向だけを決めて歩き出してみる。
通り道に意外と多く並ぶ民家は戦後のものだろうか。
木目が立派な二階建ての小さな一軒家が立ち並んでいる。
扉は横引き式のガラス窓。おそらく窃盗など無縁の世界なのだろう。
人の姿は見えないものの中からは親戚同士が集まった軽快な笑い声が漏れてくる。
不思議と正月が生み出す人の暖かさに、たまらなく首に掛けていたネックウォーマーで口元まで上げてそそくさと歩くスピードを早めた。
しばらく歩き続けると川が見えて来た。
風邪や水の流れで奇妙な形に削れた広大な岩の下で地面が見えるほど透き通った水が美しい。
後から調べてみて分かったことだが、この場所は岩が青っぽく見えることから通称〝青岩公園〟と呼ばれているらしい。
岩の正式名称は〝緑色片岩〟。
低圧・低温の影響により特殊に変化した岩で通常は庭石にも使用されているそうだ。
なるほど。どこか眺めているだけで気持ちが穏やかになってくるのはつまりそういう事なのだろう。
自然が作った庭園をボケーッと見ながら
慌ただしかった年末の記憶を成仏させるかのように頭を空っぽした。
下仁田まで来て、名所でもない川を見つめる旅の何処か楽しいのか疑問に思うだろうが
目的地を調べて観光するのは旅行であり、旅とは何も知らない場所で何かを見出すものなのだと私は思う。
時々こうして意味もなく鉄道に揺られて、ふらふらとたどり着いた先で世間への皮肉を吐くのは十分に私らしい旅になっているはずだと言い聞かせ相変わらず当ては無くも、また歩き出した。
帰りに下仁田駅の前に立つ小さなコンビニで日本酒を買ってみた。
群馬の森川酒造という蔵元が制作しているらしい。
珍しくあまり興味が惹かれないラベルであったが、せっかく来たのだからと試しに持って帰ることに。
帰りの電車でひと口飲むと、淡麗ではあるがどこか青くさい後味が印象に残る。
、、、まぁ、こんなもんだろう。
分かっていながら買った後悔はないが、、
旅と同じで酒選びもいつも成功するとは限らないのである。
味覚を酔いでごまかす様に口に含み続け、その足で上州一ノ宮駅で下車し、初詣に向かうのであった。
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- 2020.01.25 (土) 00:09
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このコメントは管理人のみ閲覧できます- 2020.01.25 (土) 12:29
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Author:森田 涼花(もりた すずか)
26歳
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吉原の多恋人俱楽部という店に在籍している森田涼花といいます。
大人の職業をさせていただいてますが、当ブログでは個人的な日常と趣味についてツラツラと綴っていくブログです。
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